香川県立中央病院で起こった受精卵取り違え”事故についてのJISARTの見解
2009年2月19日に報道された、香川県立中央病院で起こった受精卵取り違え事故は社会に大きな衝撃を与えました。特に現在治療中あるいは治療を 希望されている患者さんに与えた不安は大きいと思います。そこで今回の事故に対するJISARTの意見、およびJISART施設における安全対策について 述べます。
まず、今回の事故はわが国の生殖補助医療(ART)の現状を考えますと、決して偶然とは言い切れません。わが国のARTの現状を表1-3に示しま す。2005年度わが国の552の施設で実施された体外受精、顕微授精、凍結胚融解胚移植の総周期数は125,470で、その結果19,112人の赤ちゃ んが誕生しました。(表1)人口が約3倍の米国と同年の結果を比較すると、実施施設数は422、総治療周期数は134,260でほぼ同数でしたが、出生児 数は38,910人と2倍でした。(表2)このことは人口比で計算すれば実施施設数、治療周期数は米国の3倍で、断トツの世界一です。しかし実施施設の6 割は、年間の採卵数が100例未満しかありません。(表3)治療症例数少なければ、スタッフの熟練度は低くなり、安全管理が保たれにくくなるのは当然で す。今回の事故も、たまたま医師が一人で行い、たまたま胚移植が2例あったそうです。しかしこのようなことがたまたまあったことではなく、多くの施設で通 常行われている可能性が高いと思われます。これが今回の事故が偶然とは言い切れない理由です。
JISARTの安全管理対策
このような事故は欧米でも過去に何度もおこっており、そのため各国で生殖医療の実施規定(ガイドライン)が作成されました。しかしガイドラインを作成して も遵守されなければ意味がありません。JISARTはガイドラインを作成し(HPガイドライン参照)、それを遵守しているか否かの審査を3年毎に、しかも 患者さんも審査員として参加して行うというシステムをオーストラリア不妊学会から学び、2005年より実施しています。採卵から胚移植、胚凍結に至るまで 全て複数のスタッフによるダブルチェックが義務付けられており、JISART施設ではこのような事故が起こることは考えられません。しかし人のすることで すので絶対はありません。そのため全JISART施設は年1回、看護部門、胚培養部門、受付部門それぞれが集まり、安全管理を中心に、患者さんに安心して いただける品質管理システムの構築を目指して研修、情報交換を行っています。JISARTは今回の件を真摯に受け止め、さらなる安全管理体制を構築する所 存であります。
2009年2月27日
JISART理事長 高橋克彦