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JISARTガイドライン

ガイドライン 前文

1:
今日,生殖補助医療技術の進展に伴って,不妊症(生殖年齢の男女が子を希望しているにもかかわらず,妊娠が成立しない状態であって,医学的措置を必要とする場合をいう。)のために子を持つことができない人々が子をもつことができる可能性が拡大してきている。生殖補助医療は,夫婦間の精子・卵子・胚のみを用いる配偶者間の生殖補助医療と,提供された精子・卵子・胚を用いて行われる非配偶者間の生殖補助医療がある。前者の夫婦間の生殖補助医療については,夫婦間の不妊治療として,人工授精,体外受精等の方法により既に広く行われているところである。また,後者の非配偶者間の生殖補助医療についても,夫以外の第三者の精子を人工授精の方法により注入するAID(Artificial Insemination by Donor)が既に50年以上前より広く行われており,これまでに1万人以上の出生児が誕生しているといわれている。
このような非配偶者間の生殖補助医療については,AID以外にも,第三者の精子の体外受精の方法によるもの,第三者の卵子を提供することによるもの,第三者間の胚の移植によるもの,代理懐胎によるものがあるが,これらについては,夫婦以外の第三者の精子・卵子・胚を用いるか第三者の子宮による出産となることから,これを適正に実施するために必要な規制等の制度を整備するという観点より,国の厚生科学審議会生殖補助医療技術に関する専門委員会,同生殖補助医療部会での検討が行われ,平成15年4月28日には同部会による「精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療制度の整備に関する報告書」(以下「平成15年報告書」という。http://www.mhlw.go.jp/shingi/2003/04/s0428-5.html)が公表されている。
この平成15年報告書によれば,夫以外の第三者から提供された精子による体外受精は,女性に体外受精を受ける医学上の理由があり,かつ,精子の提供を受けなければ妊娠できない夫婦に限って容認するとの結論であり,また,妻以外の第三者から提供された卵子による体外受精は,卵子の提供を受けなければ妊娠できない夫婦に限って容認するとの結論が得られている。
2:
非配偶者間における精子又は卵子の提供による生殖補助医療の実施は,遺伝的には夫婦の一方の遺伝的要素が受け継がれないこととなるが,我が国においては,親子関係の成立に関して嫡出推定や認知制度にみられるように血縁主義が貫徹されているわけではなく,また,養子制度が存在し,実親子関係とは別に養親子関係が認められている。したがって,非配偶者間での精子又は卵子の提供による生殖補助医療は,一方の親の遺伝的要素を受け継いでいる限りにおいては,全く血縁的要素を欠く養子よりも血縁主義的な考え方に親和的であるということもできる。平成15年報告書においても,血縁主義的考え方を重視するか否かは専ら個人の判断に委ねられているものと考えられるとしている。
3:
現状においては,卵子提供等をどうしても希望する夫婦は海外渡航等によって卵子提供を受けている実情があるが,前記平成15年報告書の示した方向性を踏まえ,非配偶者間の精子又は卵子の提供による生殖補助医療の実施に当たっては,施術の安全性,インフォームド・コンセント,生まれる子の福祉に対する十分な配慮等の多面的な観点からの検討を要するところであり,かかる条件を欠く状態で野放図に生殖補助医療が実施されることには大きな問題がある。また,匿名性を備えた提供者を確保することが現実的に極めて難しいという状況が存在する。
このような状況を踏まえつつ,一般社団法人JISARTは,生殖補助医療に係る標準化機関として,前記平成15年報告書及び社団法人日本産科婦人科学会の倫理審議会答申(以下「学会答申」という。)の内容も踏まえて,今日における精子又は卵子の提供による体外受精の民間実施基準としてのガイドラインを作成し,精子又は卵子提供による非配偶者間の体外受精の臨床事案について,法的・医学的及び倫理的な観点より的確な審査を行う体制を整備することが,平成15年報告書のいう体制の整備の一助となるものと考える。
4:
本ガイドラインは,このような考え方に立って,非配偶者間の精子又は卵子の提供による生殖補助医療を実施するに当たっての指針として作成されたものである。