実施までの経緯

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JISARTが取り組む「精子又は卵子の提供による体外受精」実施までの経緯

もともと日本産科婦人科学会(学会)は「体外受精は夫婦間に限られる」として、会告により卵子の提供による体外受精を禁止していました。平成10年(1998年)6月には、長野県の根津八紘医師が、「前年に卵巣機能が失われた30代女性に、実妹からの卵子提供を受け、非配偶者間体外受精を実施し、双子を出産したこと」を新聞で公表し、根津医師は学会を除名されるという出来事が起こりました。
しかし、学会が禁止を通達している会告は、自主規制としてのガイドラインにすぎず、「行政による容認または罰則を含む規制」、「出生した子の法的地位の保護」などが必要ではないか、という声が有識者からあがるようになりました。単なる業界内の自主規制でなく、行政の公的な取り組みを求めたのです。
これを受け、平成15年(2003年)5月には、厚生科学審議会生殖補助医療部会による“精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療制度の整備に関する報告書”(報告書)が提出され、法制化が目指されるようになりました。この報告書の内容は、条件付きで卵子提供による体外受精・胚移植の実施を容認するものでした。加えて、厚生労働省雇用均等・児童家庭局母子保健課は学会に対して「精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療については、報告書における結論を実施するために必要な制度の整備がなされるまで実施されるべきでなく、この旨会員に周知願いたい」という依頼文書を送り、以後学会は現在までこれを学会の見解としています。

現代の国内の医学では、体外受精を何度行っても妊娠しない夫婦において、不妊の最大の原因が“卵子”にある場合、治療手段は「卵子の提供による体外受精」しかありません。不妊治療の現場では、このような夫婦のうち、「卵子の提供による体外受精」を希望する患者さんには、公的な整備がなされるまで待つようにと説明していました。
しかし、上記報告書から3年が過ぎても整備に向けた活動はなされず、また報告書では提供者は「匿名の第三者」としているため、希望者の多くは海外での高額な治療を受けざるを得ませんでした。匿名の第三者による卵子提供が事実上不可能な日本の現状の中で、卵子提供は望むべくもなく、海外に行けない患者さんは、制度整備を待つ間に齢を重ね、貴重な状況にありました。

そうした中で、平成18年(2006年)4月20日に、JISART会員施設Aから「早発閉経の患者に対する、友人からの卵子提供による非配偶者間体外受精」の実施要請がありました。
JISARTは、わが国の生殖医療の品質向上及び患者の満足を高めることを目指していることから、この場合の「卵子提供による非配偶者間体外受精」の要請はその主旨に適っていると判断し、JISART倫理委員会に対しての申請を容認。倫理委員会でも受理されました。次いで、同年11月6日に会員施設Bからも、同様の患者への姉妹からの卵子提供申請が受理されています。
JISART倫理委員会は、平成15年の報告書に基づいて委員会の構成を整備し、平成18年5月20日から平成19年3月25日まで合計9回にわたり委員会を開催して、上記2件の実施の可否について慎重に審議を行いました。そして、1例目に対しては平成19年2月16日、2例目に対しては4月27日に、それぞれ実施を認めることにしました。これらはJISARTの理事会も承認しましたが、実施にあたっては、事前に学会、厚労省、日本学術会議に申請を行い、実施可否の判断を仰ぐことにしました。
その後の経緯については、こちらをご覧ください。

JISART独自のガイドライン作成

厚生労働省雇用均等・児童家庭局母子保健課からの回答は、非配偶者間の体外受精に関して「実施の許可判断をする立場にない」とするものでした。そこで、今後の非配偶者間体外受精実施について、JISART倫理委員会及び理事会は、3月1日に「精子・卵子提供による非配偶者間体外受精」に関するJISART独自のガイドラインを作成することを決定しました。
この「精子又は卵子の提供による体外受精に関するJISARTのガイドライン」は、その草案が6月7日、JISART倫理委員会及び理事会で審議ののち承認され、2008年7月10日に完成しました。
以降、JISART実施施設は本ガイドライン及び実施規定を遵守しつつ、提供配偶子による非配偶者間体外受精を実施することとなりました。さらに実施施設には、実施経過及び結果をJISART理事会及び倫理委員会に報告することが義務付けられており、これにより適切な実施を担保することとしています。